“巌窟王”エドモン・ダンテスの物語をマンガ1冊で読む『モンテ・クリスト伯爵』


 世界的に有名な「復讐劇」と言えば?

 ──やっぱり、知名度では『ハムレット』が断トツかしら。ご存知、シェイクスピアの著作であり、四大悲劇のひとつとして謳われる長編戯曲。ただしその分類ゆえか、どちらかと言うと “復讐” よりも “悲劇” をキーワードとして語られる印象もあったりなかったり*1

 一方で、日本では『巌窟王』の名で親しまれている『モンテ・クリスト伯』その人を、「復讐者」の代名詞として挙げる人も多い。僕自身、いまだ不思議と敷居の高さを感じる『ハムレット』よりは『巌窟王』のほうが親しみやすいように思うし、実際、後者は少年時代に読んだ記憶もある。

 思い返してみれば、子供心に「難しそう……」と感じられた『ハムレット』に対して、児童向けの『巌窟王』は安心と信頼の青い鳥文庫。読みやすく、理解しやすく、純粋におもしろい。そりゃあ記憶にも残るわけです。

 あと、幼心に触れたシェイクスピア作品って『ロミジュリ』の印象が強すぎて、そっちに記憶を持っていかれた説もある。ギャグマンガでもネタとして登場しやすいし。

 ともあれ、そういった過去の感動が残っているからこそ、自分にとっては「復讐劇(復讐者)と言えば、ハムレットよりも巌窟王!」となるのでした。──というわけで今回は、そんな『巌窟王』こと『モンテ・クリスト伯』のコミカライズ版について。

 

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おなじみの復讐劇を1冊にまとめ上げたコミカライズ

 子供向けの本もあるとはいえ、壮大な復讐譚である『モンテ・クリスト伯』。

 デュマの原著は全18巻、日本の岩波文庫版でも全7巻に及ぶ長編であり、興味はあっても「なげえ!」と手をこまねいていた人もいるのではないかしら。岩波版はなんと、全2,457ページ。わけがわからないよ!

 ところがどっこい。2014年から月刊誌で連載され、翌年に単行本として発売された本書『モンテ・クリスト伯爵』は、なんと全1巻。

 オリジナルの展開ほぼそのままに12話で『モンテ・クリスト伯』の物語を描ききるという、とてつもないコミカライズとなっています。

 でも短いからと言って、 “マンガでわかる” 系書籍のようなダイジェスト版となっていないのが、本作のすごいところ。

 原著のエッセンスをうまく拾ってまとめあげた作品として各所での評価も高く、「手軽に『巌窟王』を知りたいならこれを読んどけ!」としばしば参照されているようです*2

 少なからず展開の早さを感じられる部分があるとはいえ、それも違和感のない程度。むしろ『モンテ・クリスト伯』という物語について初見であれば、原作を知っている人よりもスムーズに読めると思います。逆に原作の愛読者であればあるほど、「はええ!」と感じるかもしれない。

モンテ・クリスト伯爵 森山絵凪 感想
森山絵凪『モンテ・クリスト伯爵』P.126より

 たしかに、意識して読むと台詞は多め。圧迫感を覚えてもおかしくはないように思います。

 でも個人的には、コマ割り・構成の良さゆえかその点はあまり気にならず、サクサク読めるという感想を持ちました。このくらいの台詞量であれば、昨今の “マンガ” としては珍しくないようにも見えますしね。

 そして、作品の中心にいる主人公・エドモン──もとい “モンテ・クリスト伯爵” の、マンガならではの表情と怨讐の表現が、これまたすごい。

モンテ・クリスト伯爵 森山絵凪 感想
森山絵凪『モンテ・クリスト伯爵』P.11より

 冒頭、「若き船乗りとしてのエドモン・ダンテス」の爽やかイケメンっぷりから、

モンテ・クリスト伯爵 森山絵凪 感想
森山絵凪『モンテ・クリスト伯爵』P.31より

 シャトー・ディフでの「世の理不尽に絶望し報復を誓った復讐鬼」への豹変を経て*3

モンテ・クリスト伯爵 森山絵凪 感想
森山絵凪『モンテ・クリスト伯爵』P.146より

 監獄島を脱出し、「富と権力と憎悪を糧に復讐を為すモンテ・クリスト伯爵」に至るまで。すばらしくCOOLだ……。でもやはり展開が早いためか、割とあっさり情に流されているようにも映ってかわいい。

 ファリア神父より授かった知識と知恵、脱出後に得た富と権力でもってパリの社交界に舞い降りたイケメンは、それでもなお「復讐」という目的それだけのために生きる、エドモン・ダンテスの成れの果て。

 彼のそのダークヒーローっぷりは、現代のマンガにもぴったりじゃないか! ──と、最高に楽しむことができたのでした。それと、エデがエ口かわいいです。

 ──とまあそんな感じで、子供のころに『巌窟王』に親しんだ人はもちろんのこと、すでに日本語版を読みきった人、そして初めてこの復讐譚に触れるという人にもおすすめできるコミカライズが、本作『モンテ・クリスト伯爵』です。

 できるなら無理に1巻に抑えず、もうちょっと時間をかけて描いていれば最高だったのでしょうが……その辺は、あれこれ言っても仕方のないこと。懐かしくも今なお魅力的な『巌窟王』の世界を一気に駆け抜けることのできる作品として、今でもたまに読み返しております。

 

本作を読んで絵柄が気に入った人には、作者さんの新作『この愛は、異端。』もおすすめ!


 

 ちなみに、エドモンの傍らにエデがいなければ、こうなる……と。

FGO 巌窟王 エドモン・ダンテス

 いや、なんかもう完全に余談ですが、『Fate/Grand Order』における「巌窟王 エドモン・ダンテス」の何が良いって、「復讐の果てに悪性を捨てたエドモン・ダンテスが召喚されるならば、 “復讐者” のクラス、復讐鬼の偶像として召喚されるはずがないから、自分はエドモンじゃない」的なことを語りつつも、原著の存在ゆえに己も復讐を成すことは叶わないという二重構造を持ち、さらにはファリア神父やエデに言及し、果てはマスターに彼らの面影や自身との共通性を見出しつつも、最後には別個の個人として認め力を貸すべく終章ではパートナー面して助けにくるのが最高だよな!(一部『Fate/Grand Order material Ⅲ』を引用) というかそもそも、フィクションとしての『モンテ・クリスト伯』その人として召喚されているのか、そのモデルとなった人物に英霊としての性質が付与されているのか、そういった背景もマテリアルで言及されているようでボカされているのがかえって魅力っぽくなってるし、二次創作でも人気が高まりつつあるのにも納得でござる。……まあ何が言いたいかっていうと、とりあえずカルデアでマスターやってる人にはおすすめのマンガだよ!

 

 

© 2015 ENA MORIYAMA

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*1:そもそも「復讐劇」=「復讐悲劇」であるようですが(復讐悲劇 - Wikipedia)。

*2:紀伊國屋書店新宿本店で開催中の「Fateフェア/第X特異点」でも選書に挙がっていた模様(参考リンク)。見に行ったときには品切れ状態だったほどの人気ぶり。

*3:その傍らにはファリア神父の存在もあったものの。