『青春のアフター』片思いの“後始末”が心を抉るラブコメ漫画


青春のアフター 2巻 緑のルーペ
緑のルーペ『青春のアフター』(2)/第11話 P.105

 願わくば、最後はハッピーエンドで終わりますように。

 青春の “後始末” を描いた群像劇、『青春のアフター』を読みました。2巻まで読み終えて、思わず頭を抱えてしまった。うわあ……マジかよ……きっついわこれ……と。

 ほろ苦い青春模様でなく、かと言って、泥沼のような三角関係モノでもなく。若かった頃の過ちと、植え付けられたトラウマと、無慈悲に過ぎる年月の流れと、変化が突きつける残酷な現実と、すべてを引っくるめて残るやるせなさ。つらい。くるしい。きつい。

自分を振った相手が、16年後、そのままの姿で目の前に

 本作『青春のアフター』は、タイムスリップ(と劇中でも表現されている)が鍵となっている、青春ラブコメ。ただの三角関係で終わっていればよかったのに、そこに時間軸が加わったせいで胃痛がマッハになりかねない、とってもとってもステキな青春群像劇なのです。

 それは、別れで終わる恋物語のほうがマシなくらい。「叶わなかった悲恋」ではなく、「一度は諦めた恋心(あとついでにトラウマ)が、前触れなく眼前に戻ってくる」という、ある意味ではすごく残酷な物語。

青春のアフター 1巻 緑のルーペ
緑のルーペ『青春のアフター』(1)/第1話 P.23

 第1話だけを読むと、よくある三角関係のひとつにも見えなくもない。冴えない男子高校生の主人公・鳥羽が、自分と同じようにクラス内で浮いていたヒロイン・さくらに惚れ、でも彼女は、自分にちょっかいを出す金髪チャラ男・倉橋にぞっこんだった……と。おのれ金髪、許すまじ。

 さくらの想いを知った鳥羽は、彼女を追いかけ勢いで告白するが、取り付く島もない。「邪魔をされた!」と手痛く振られ、1話から修羅場とかやめたげてよぉ……と思っていたら、次の瞬間、彼女はその場から消えていた。鳥羽に対して言い様のない、深い深い傷を残したまま、行方不明に。

青春のアフター 1巻 緑のルーペ
緑のルーペ『青春のアフター』(1)/第2話 P.60

 ──それから16年後、消えた彼女はそのままの姿で、再び彼の前に現れた。

忘れたはずの恋心と、痛みを伴う思い出と、青春の“後始末”

 16年が経ち、主人公・鳥羽は32歳。それまでにいろいろあったものの、髪を金色に染め、 “彼女” が好きだったゲームの制作会社のデザイナーとして、順風満帆な日々を送っていた模様。しかも眼鏡っ娘の恋人持ち。同棲生活を始めようとした矢先だった。勝ち組じゃん!

 対するヒロイン・さくらは、完全にそのままの姿形で、「鳥羽を振ったその瞬間から16年後にタイムスリップしてきた」としか言い表せない状況。何が何やらわからないものの、とりあえずは鳥羽とその恋人・みい子の家に居候することになる。――わぁい、ドロドロの三角関係かな?

青春のアフター 1巻 緑のルーペ
緑のルーペ『青春のアフター』(1)/第4話 P.110

 かと思いきや、そこは32歳の主人公。思いのほか冷静であり、淡白な反応である。16年ぶりに会ったさくらとの会話にギクシャクする様子もなく、現在の恋人・みい子と、さくらとの仲も上々で、ほんわかかわいい、まったりとした日常がしばらく描かれます。

 ところがどっこい。当然、そうは問屋がおろさない。1巻ラストでは「え!?そうくるの!?」と想像もしなかった急展開を見せ、思わず2巻もその場で買って、一気読みしてしまったのでありました。……結果、頭を抱えてぐおおと転げまわるまでが昨夜のハイライト。つらい。

 続く2巻で描かれるのは、「さくらがいなかった16年」の断片的な記憶。鳥羽のトラウマであり、献身的で一途な想いであり、偏狭的に拗れきった依存と固執。これが、読んでいて本当にキツい。順風満帆どころか、かなり酷い16年間でござった。くるしい。

 で、ようやっと仕事も安定し、恋人との新生活を始めんとしたところに、16年前の “青春” そのままの形をしたヒロインが登場っすよ。純度100%のトラウマが斬りかかってくるわけっすよ。……そりゃあアラサーになろうが、古傷がぱっくり開いても不思議じゃない。きっつー。

 

 それゆえの、 “青春の後始末(アフター)” 

 

 「失恋」は割り切るもの、乗り越えるもの、時が過ぎれば笑って話せるもの。――そのように断言するのは簡単だけれど、「割りきったつもりでも、そんな簡単なもんじゃない」と、現実を突きつけるような非情さが、本作にはある。

 ほろ苦い青春ラブコメなら、まだ良い。若気の至り、男女のいざこざ、誰も幸せにならなそうな三角関係――など、王道展開は安心安定。途中、ちょっとしたハラハラ展開や予想外の変化球が飛んできたとしても、最後は落ち着くところに落ち着くので。

 しかし本作は、どうにもこうにも先が読めない。古傷を抱えたまま大人になった主人公と、少女の姿のまま、2人の男性の間で移ろう恋慕を抱えたヒロイン。この手の「時差」によるすれ違いって、最近だと『凪のあすから』で目にして「大好物です!!」なんて興奮してたけれど……本作は、また別。この揺さぶられ方、やるせなさは、むしろもっと昔――そう、何年も前に『君が望む永遠』を読んだときの衝撃に近い。ぐああ……またトラウマががががg

「汚くて醜いものを否定し続けるだけじゃなくて、
 飲み込んで自分の血肉にする時がきっと来るよ」

「……何の話?」

「青春のその後の話」

(緑のルーペ『青春のアフター』(2)/第9話 P.56)

 いろいろと抉られるような読後感を抱きつつも、こうしてパソコンに向かって感想をまとめているあたり、すでに自分としては大好きなマンガとなっているわけですが。

 2巻ラスト、逆転する形で繰り返された絶叫の先に、はたして救いがあるのかどうか。キャラクターの誰もが魅力的な分、ますます胃が痛くなりそうではあるものの、むちゃくちゃ先が楽しみな作品です。

 

© 緑のルーペ/双葉社

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