飲み会後。財布の英世。暖簾の先のスープの香り。


 楽しい飲み会を終えて、寄り添い夜の街へ消えていく男女。あるいは男男。
 彼ら彼女らの背中を見送り向かう先は、赤暖簾が鮮やかなラーメン屋さん。

 

メシはほどほど、お酒はゴクゴク、〆はラーメン

 大学生のころに初めて聞いた謎ワードのひとつ、「〆はラーメン」。何やら飲み会のあとにはラーメンを食べるのが “オツ” で “粋” な振る舞いらしく、一部の男衆はたびたびラーメン屋さんへ足を運んでいたような覚えがある。飲み屋で食べればいいのに(ボソッ

 というかそれ以前の問題として、飲み会の場であれだけ飲み食いしていたにも関わらず、「よっしゃ、次はラーメンやで」と当たり前のように足が動くことが信じられなかった。酔って気持ち悪くないのかしら。それとも、酔っぱらいながら騒ぎはしゃいでカロリーを中和しきっているのだろうか。そうか……これが、若さか! なればこそ、老け顔の自分が彼らに着いて行けようはずもなかったのだ。

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 そんな感じで、当時の自分にとっては半分くらい訳がわからなかった「〆はラーメン」論。大食いゆえの思考回路なのか、はたまたやはり “若さ” なのか。

 とはいえ、自分もまったくその流れに乗らなかったわけではなく、「朝までカラオケだわっしょーい!!」とカラオケルームにサイリウムを持ち込み水樹奈々様のライブ映像の前で仲間とひゃっはーしていれば空腹にもなるので、その際には途中で抜けてラーメンを食しに行っていたのだけれど。たしかに、丑三つ時に食べるラーメンは絶品でござった。しばらく食ってない……というか、オールをしていない。これが、歳か……。

 

微笑む英世の視線の先には

 ところがどっこい。最近になってこの「〆はラーメン」論が、「わかる」ようになってしまった。飲み会を終えて直帰するのが物悲しい……もとい、なんとなく “もったいない” ように感じられて、どこか寄り道したくなる。それも、ひとりで。

 かと言って、ぼっちで飲み直すのもちょっと違う気がするし、ピンクピンクしたお店は怖くて足が向かない。渋谷だったらTSUTAYAでCDを物色するのもありだけれど、それはまあいつでもできる。でも、己が懐をまさぐり、ぺたんこな胸……じゃなくてお財布を開いてみると、1,000の値を冠する “英世” が物欲しそうな目でこちらを見ているのですよ。「ほら、素直になっちゃいなよ、ゆー」と。

 視線の先にあるのは、赤を基調とした暖簾あるいは提灯。ほのかな灯りに照らされて浮かび上がる文字を読めば、そこに踊る四文字――すなわち “ラーメン” と。……ちくしょう、やはり貴様なのか。わかってはいたが、認めるのも悔しいおっさん心。それでいいのか、DEBUになるぞ。

 だがしかし、悔しいことに美味いのだ。飲み会のあとには、よもや食わずにはいられないのだ。――あれだけ飲み屋で飲み食いしたし充分だろう。ただでさえ飲み代は高いんだ。その英世を出すくらいなら、本でも買って読めばいいじゃないかと、そう囁く声が聞こえるにも関わらず。

 それでもなお、やっぱり足は動いてしまう。暖簾の内側へと。名前も知らない深夜のおっさん客の一員へとなるべく。もうやめて、胃のライフポイントはゼロよ! ……へっ、バカぁいっちゃぁいけねぇよ。まだまだ食えるぜ。お前も聞こえないか? DEBUの胎動がよぉ……!

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多段攻撃を繰り出す、スーパー上品な中華蕎麦「三藤」@自由が丘 - ぐるりみち。

 ――そして、DEBUになる。

 

「〆のラーメン」は精神的な余裕?

 世間一般の事情はわかりませんが、自分にとっては「〆のラーメン」って、イコールその時点での精神的安定感を示しているようにも思うですよね。……って、なに言ってるかわからないっすよね、はい。

 大学時代は、そんなジャブジャブお金を使えるほど金銭的に余裕がなかったので、「飲み会あとにさらにワンコイン以上を使う」という考え自体がまず出てこなかった。使って、ゲーセンで1クレジット。それ以上は胃が痛い。けいろー、おうちにかえる。

 会社員になると、今度は「翌日」を考えざるを得なくなる。金曜夜に飲み会があったとして、土曜日を意識してしまう。ちゃっちゃと帰って寝たほうが、有意義な週末を過ごせるのではないか。ここでメシにお金を払うよりも、休日のランチで良いもん食ったほうがいいんじゃないか、と。

 そう考えると、フリーランスになった今、「よっしゃ英世、おまんの出番や」と躊躇なく暖簾の先の世界へ飛び込むことができるのは、現在のライフスタイルが自分にとって楽であること、余裕を持ちやすい生活であることの証左なんじゃないかしら、と思いまして。

 ……などと、それっぽいことを書いてはみたものの、ぶっちゃけ一口に言えば、「おっさんになった」という、ただそれだけなのかもしれない。お酒のあとには、大正義の赤暖簾。楽しい飲み会を終えて、その一日を完璧なものにするための、最後の儀式。それが、「〆のラーメン」なのかも。

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池袋「麺屋 六感堂」のラーメンは健康志向のあっさり緑麺 - ぐるりみち。

 愛してるぜ、ラーメン。

 

 

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