池上彰さんの著書『世界を変えた10冊の本』を読みました。
「池上さん視点による、世界的に有名な書籍の紹介本かな?」という想像を裏切らず、10冊の本をそれぞれ丁寧に紐解いたブックガイドとなっております。
ただし、選書の基準は必ずしも有名であるものに留まらず*1、表題のとおり、 “世界を変えた” 本であるという共通項でもって解説されている様子。その “10冊” を見ても、社会学・哲学・法学などの分野に数多くある名著は取り上げられていないので。
いずれも現代の「常識」を整理・再考するための選書であると考えれば、「2010年代に読むべき10冊」とも言い換えられるかもしれない。キリスト教とイスラム教の衝突や、今も世界情勢を大きく動かし続けている思想体系などを概説した内容。
ブックガイドであると同時に、現代社会の諸問題を俯瞰する手助けともなりうる1冊。宗教・経済に関して、あんぽんたんの自分でも問題なく読むことができました。その点は、やはり安定の “池上印” でございますね。
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1冊も読んだことがなかった!
なにはなくとも、まずは本書で紹介されている「10冊」を確認してみましょう。
- 『アンネの日記』
- 『聖書』
- 『コーラン』
- 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
- 『資本論』
- 『イスラーム原理主義の「道しるべ」』
- 『沈黙の春』
- 『種の起源』
- 『雇用、利子および貨幣の一般理論』
- 『資本主義と自由』
──わぁい!
見事に1冊も読んだことがないぞ!
強いて言えば、『聖書』はホテルに置いてあるのをパラ読みしたことがあるとか、『アンネの日記』も図書館にあった児童向けのものをチラ見した記憶があるとか、『資本論』その他の経済書は大学の「入門」系の講義で参照した程度には見覚えがあるとか……そのレベル。
しかしそこは、安定と信頼の池上本。
そんなレベルの僕でも本の内容がそれなりにピンとくるよう、非常にわかりやすく解説されております。門外漢でも理解できるように要点をまとめているだけでなく、その本が著される前提となった出来事や人物の背景まで書かれている親切さ。
たとえここで紹介されている本に触れずとも、本書を読めば何かしらの断片的な知識は身に付けられるであろう、純粋に “勉強になる” 1冊として数えられることは間違いない。──もちろん、断片的過ぎて付け焼き刃程度にしかならないでしょうが。
この『世界を変えた10冊の本』を読み終えたあと、どのような行動を取るかは置いとくとして。なにはともあれ、誰もが手に取ることのできる「名著のブックガイド」としては、とても敷居の低い1冊となっております。それこそ、中学生くらいからでも読めるはず。
あくまで中立視点からの「概説」と、読者への問いかけ
さて、本書はもともと、女性誌で連載されていた記事を再構成してまとめ上げた1冊だという話。全10冊、全10章を個別に読んでもおもしろくはあるのですが、通して読むと、しっかりと各々に連関のある選書となっていることがよくわかる。
例えば、1冊目・第1章の『アンネの日記』。一見すると、なぜこれを最初に持ってきたのか首を傾げるところですが、しっかりと後に続く9冊につながっている……ようにも読めるのです。
なぜ、この本が「世界を変えた」のかと疑問の方もいらっしゃることでしょう。中東問題の行方に大きな影響力を持っているから、というのが、私の答えです。
(中略)
イスラエルが、いまも存続し、中東に確固たる地歩を築いているのは、『アンネの日記』という存在があるからだ、というのが私の見方です。
『アンネの日記』を単なる文学作品、あるいは戦争の陰惨さを伝える歴史的資料として説明するのではなく、現代にまで続く中東問題と、その象徴たるイスラエルとの関係がある本として、はっきりとここでツッコんでいる格好。
高校の世界史程度しか知識がない自分からすれば「どういうこっちゃねん?」と、この時点で関心を引き寄せられることになりました。
そこから続く第2、3章は『聖書』に『コーラン』という、もはや言うまでもない比較の構成。
同じ一神教であるキリスト教・イスラム教・ユダヤ教の背景と関連性を改めて整理したうえで、その差異と問題点を指摘。 本の解説に留まらず、現在の世界情勢にまで言及しています。
そのうえで取り上げられた4冊目『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』によって、話題は経済の方向へも展開。「資本主義ってなんだっけ……」に始まり、経済と宗教の切り離せない関係性、その道の先で生まれたイスラーム原理主義が世界に及ぼす影響を説明。
言うなれば、全く関係がないように見えて、実は明確につながっている世界情勢・社会問題に影響を与えてきた「10冊」を紐解いていく構成。
そうすることによって、ざっくりとではあるものの、2010年代を俯瞰するような内容となっているようにも読めました。
また、なかには「それはどないやねん」と言わんばかりの、著者の思想が読み取れそうな言説もあるのですが、それでも最終的な判断は読者に任せようという思いも見て取れる書き口。これも池上さんらしいと言えば、 “らしい” 本であるようにも感じますね。選書からして、ひとつの思想体系について「これ!」と断定するようなものではないということがわかるかと。
これら10冊を読み切るには莫大な時間と労力を要することが想像されることもあり、まずはこの1冊から始めるのも悪くはないはず。とりあえずは本書を2、3周くらいしたうえで、各々に関心のある分野へと向かうための指針とするのが良いのではないかしら。
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*1:結果として、有名な本ばかりになっていますが。