秋の落ち葉は暖かい/春のサクラは薄ら寒い


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 落ち葉は、あったかいのだ。

 

冬の始まりを告げる落ち葉の下は、意外とあったかい

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 子供の頃、裏山の斜面が落ち葉でいっぱいになる「秋」という季節が好きだった。一面に降り注いだ色とりどりの葉っぱは、いくら使っても尽きることがない。秋の山は、オモチャ箱をひっくり返したかのように賑やかだ。

 大小さまざまな落枝を骨格に据えて、表面にはビニールやダンボールを覆い被せ、仕上げに落ち葉をふんだんに振りかければ、お手製の秘密基地の完成である。……小さな裏山の一角ゆえに、隠匿性は高くないけれど。数日もすれば壊されるのがオチ。

 ごっこ遊びにおいても、落ち葉は大活躍。小学生低学年の身体は小さく、地面に伏せて仲間に落ち葉を被せてもらえば、意外にも景色と同化して気づかれない。

 この、いわゆる “忍法・木の葉隠れ” は反則級の技とされ、かくれんぼに缶蹴りにと、大活躍。オニ側は警戒するあまり、落ち葉が大量に降り積もった場所はあえて膝下を掻き分けながら進むほどの事態になった。……で、 “下” に注意を向けているところに頭上――木の上から奇襲をかけるのが、当時お気に入りの戦法でござった。ふはは。

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 そんな感じであれこれと遊んでいる中で気づいたのが、「落ち葉って、あったかい!」ということ。ちょっと被った程度じゃそうでもないけれど、そこそこの量を身体の上に被せてしばらくすると、意外にぽかぽかしてくるのです。落ち葉君と一緒にいると、ぽかぽかするの(CV.林原めぐみ)*1

 ――もちろん、この歳になって、公園で落ち葉を被って「んんwww落ち葉の下、ぽかぽかしますぞwww」なんてモゴモゴ言っていたら通報されかねない。そこで、 “下” でなくとも、直に “上” に座るだけでも、他の植物・地べたとは異なる「暖」を感じられるのではないかと。

 もしかしたら自分の思い込みなのかもしれませんが、ググッてみたところ、どうやら落ち葉の「発酵熱」によるものだという話もちらほらとある様子。そーなのかー。

 

「春の桜」の薄ら寒さと、「秋の紅葉」の暖かさ

 落ち葉に関連して、「秋の紅葉」の対極にあるのが、「春の桜」。古来より日本人は桜が大好きで、花見じゃー! 宴会じゃー! 夜桜じゃー! ひゃっはー! ……と、今なお春になれば大盛り上がり。

 これから冬へと向かわんとし、どこか静けさを感じる「秋」と比べれば、冬を乗り越え暖かくなりつつある中で咲き誇る桜の存在は、新たな始まりを思い起こさせるものでもありましょう。桜……坂の下……あんぱん……うっ、頭が……。

 

渚

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 しかし、それだけ愛され、誰もが集って花見へと向かう花の美しさに相対するように、醜さ・恐怖・死を想起させる存在として「桜」がしばしば描かれてきたのも事実でござる。 “桜の樹の下には屍体が埋まっている!” に代表されるように*2

 自分個人の心象としても、少なくとも、夜桜を一人で見に行こうとはなかなか考えない。都会ではなかなかないけれど、満開の桜並木の中をひとりぼっちで歩くとか、正気の沙汰とは思えない。……いや、だって、怖くありません? 怪談でありがちな場面っぽいし。

 というか、夜の桜並木って、どうしてあんなにも静寂に満ち満ちているんだろう。「あなたの人生で、もっとも “静” を感じた瞬間は?」と問われたら、僕はそれだと答えます。試験会場が賑やかに感じるレベル。あれかな? あまりの美しさにまず視覚を奪われ、それによって五感が鋭敏になったがために、より “静けさ” が気になっちゃう感じ?

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 それに引き換え、秋の夜長は大盛況でございます。春の夜は、花見客という「人」の存在がなければ、その静けさに気が狂いそうになるけれど、秋は別。「人」がいなくたって、秋の夜は「音」に満ち満ちているのです。

 なぜならそこは、虫たちのコンサート会場。――イカれたメンバーを紹介するぜ! スズムシ! マツムシ! コオロギ! ウマオイ! クツワムシ! 俺たち揃って、秋虫バンド!\デェェェェン/ …………とまあ、賑やかなもんですよ。うん。チンチロチンチロ チンチロリン。

 そうやって考えると、どこか薄ら寒さを感じる「春」の夜と、生き物の存在を感じ取れる「秋」の夜は、意外と後者のほうが暖かみを感じる季節であるようにも思う。同じ夜にひとりぼっちで歩くなら、春よりも秋のほうが気持ち的には安心できる。そこには、「孤独」がない。

 

桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。

坂口安吾 桜の森の満開の下 - 青空文庫

 

 あと、アレだ。実際に “埋まってみた” 実感として、「桜の花びら」よりは、「落ち葉」のほうが隠匿性が高いし、あったかいです。これは自信を持って言える。

 紅葉の時期にはまだちょっと早いですが、この秋は、よかったら一緒に落ち葉の下に “埋まって” みませんか?

 ――あ、毛虫には注意してね!(刺された経験あり)

 

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