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ぐるりみち。

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『内定童貞』悪夢のような就活に挑む学生に向けた応援本

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 中川淳一郎@unkotaberunoさんの新著『内定童貞』を読みました。たびたびウェブ上で目にするライターさんで、かつ複数の著作の存在も知っていたのですが、単著を読むのは何気に初めて。

 変に隠さず実名企業をポンポン出して、あっちゃこっちゃへツッコむ展開がおもしろかったです。他の著作を読んだことがないのにこう書くのもアレだけど、星海社新書で読むのが一番しっくりくる感じ。フォントとか、構成とか。

 

 一口に言えば、「凝り固まった就活生に対する劇薬」といった印象。既刊『夢、死ね!』では、曖昧で心地の良いことばに騙されるな!といった論調で切り込んでいたようですが、その論調とつながる部分もあるのかもしれない。

 かと言って、単なる逆張りというわけでもなく。やたらと定型化・神聖化されがちな “シューカツ” という一連の活動に対して、「いや、でも実際はこんなもんだべ?」とその性質を指摘するような内容です。書店に溢れる “就活本” とは質の異なる書籍であるものの、数ヶ月に渡って続く就職活動の「攻略本」という意味では、似たような一面もあるのかもしれない。

 僕自身、3、4年ほど前には “シューカツ” の真っ只中にあった元就活生ではありますが、納得・共感のできる部分が非常に多かったです。何より純粋に、読み物として楽しんで読むことができました。業界や企業のエピソードだけでもおもしろい。

 

現役就活生に向けたアドバイス

 冒頭では「ウソつきだらけの就職活動なんて辞めちまえ!(意訳)と、早速斬りかかっておられますが、何の事はございません。「自己PR」や「志望動機」でよくわからない例えをしたり、アホみたいに自分を取り繕う必要なんてなし、という話。

 「明確な『答え』のない就活においては、こうこうこういう考えで取り組んでみたらどうだろう?」という提案がなされているのが第1章部分であり、本書のメインコンテンツとして読めました。実質的に “就活生向け” の、参考となりそうな助言は、この100ページ分に凝縮されている印象です。

 

 内定を取る学生はどんな人物か――これについては諸説あるだろうが、恐らくはこれである。

  ①なんとなく社風に合っている
  ②なんとなく会社に貢献してくれそうな気がする
  ③なんとなく楽しんで仕事をしてくれそうな気がする
  ④なんとなく将来化けそうな期待がある
  ⑤どう見ても優秀

 ⑤を除き、「なんとなく」といった茫漠とした要素が内定を左右する。「志望動機が素晴らしかった」という理由で内定を取る学生など皆無である。

 

 実際に内定を得た “卒業” 生の皆様としては、この指摘についてどう感じるのだろう。自分としては、内定をもらえた理由なんて今になってもわからないし、OB訪問をされたときにも「 “なんとなく” 波長があったんじゃね?」的な回答をしたので、この指摘には納得できます。

 これは、既に就職活動を経験し、めでたく “卒業” できている人であれば、「何を今更」な指摘かもしれない。けれど、大多数が一様にリクルートスーツに身を包み、一斉にエントリーし、合同説明会に参加するような「テンプレ」の環境に流され続けると、就活においても明確な「解」が存在するんじゃないかと錯覚してしまうもの。もちろん、中には有用な「型」もあるだろうけれど。

 本書の前半部分ではこのように、現在の就職活動における「型」を崩すような言説と指摘が展開されています。これを、現役の就活生ならばどのように読むか――。卒業生としては想像しかできないものの、就活中に植え付けられた固定観念を程よく壊し、さらに学生を奮起させるような「アドバイス」になっているように読めました。

 

加点方式の「面接」と、“シューカツ”の本質

 後半は中川さん自らのエピソードをもとに、〈採用される側〉と〈採用する側〉の両視点から、「面接ってこんなもんやで」という実体験を語った内容となっています。

 〈採用される側〉からの視点としては、面接に際しての心構えや話の展開、「面接官にもバカはいる」という事実、そして何より、 “敵” ではない “味方” としての人事の存在について。

 〈採用する側〉に立ったときのエピソードとしては、人事が示した「採用基準」や、魅力的な学生の条件、企業ごとのカラーの差など。就職活動に関する専門家の話ではないものの、それゆえに実感を持って読むことのできる、ナマのエピソードがおもしろい。

 

 他方では、本文中でも書かれているように、著者が就職活動をしていた90年代当時と現在では、確かに “シューカツ” の形が異なっていることも否めない。実際、「いやいやそれは今は当てはまらないんじゃ……」と思うところも少なからずはありました。

 が、これからの勤め先を決定する「就職活動」という諸活動全般に対する心構えとしては、ここで指摘されている内容は参考になるものだと思います。

 

 面接官が何かの質問をしたり、「◯◯をやってください」と言ったら、それは意地悪をしようとしているのではなく、何か素晴らしいモノを見せてください、という助け舟だと思って良い。面接官は減点をしようとしているのではなく、加点をしようとしているのだ。その原則は覚えておいた方がいい。

 

 学生からすれば、数十社のESやら選考やらの準備があり、実際の面接の場に臨めば相手は経験豊かな人生の先輩で、その場その場に必死になって取り組むしかないんですよね。だからこそ、視野狭窄に陥りがちで、ビクビクしてしまうもの。

 でも実際は、そんな大層なものでも何でもないんだよ自然体で挑んでもいいんだよ、と。過去のエピソードや就活生の経験談から、そのような「気付き」を示してくれるのが、後半の内容であるように読めました。

 

 正直に言うと、現実問題としては企業を分析し、 “演じきる” 手法も就活においては有効だし、決して悪いものではないとも個人的には思います。そのような「優等生」を望んでいる企業も少なからずあるだろうし、何よりもまずは内定を取るのが先決とも。

 完全に鵜呑みにするのは怖い。しかし、どうにも迷走しがちな “シューカツ” という活動の過程においては、このような示唆に富んだ本が助けになることもあるのではないかと思います。「就活生に勧めたい本」が自分の中に何冊かあるのですが、その1冊に挙げるくらいには。

 

 本当の意味での「失敗」という言葉は、人生においてはあまりないのではないだろうか。あくまでも「コース変更」というだけであり、常に人生は軌道修正の連続なのである。

 

 

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