【連載】ネットとリアル、全てを繋げるネットワーク


 2000年代のインターネットと言えば、その中心には常にGoogleの存在があった。Googleを代表とする検索エンジンの存在が、ウェブへの入り口として大きな役割を果たしていたことは言うまでもない。もちろん、その影響力は今尚絶大だと言えるだろう。

 ところがここ数年、インターネットにおけるFacebookの影響力が急速に高まりつつある。Hitwiseの調査によれば、2010年3月にはFacebookがついにGoogleを抜いてアメリカで最もアクセス数の多いウェブサイトとなった*1

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 このことからも分かるように、Facebookが台頭してきた現在、ウェブにおけるGoogle一強の時代は終焉を迎えつつある。これから先のインターネット事情について考えるとき、Facebookの話題は避けて通れないものとなるはずだ。

 本記事では、第2回で話題とした「地図」などの情報も鑑みた上で、インターネット全体を見る中でソーシャルメディアの存在がどのような価値を持っているかを再考する。そして、ソーシャルメディアがこの先どのように変化するか、果ては現実社会に何をもたらすのか、という内容についても考えたい。ただ現状を確認するだけではなく、これからどうなるかという「未来」の展望についてを推測・検討するものとする。

 

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ソーシャルメディアがもたらすもの

 冒頭で、FacebookがGoogleのアクセス数を超えたという話題を出したが、この事実が持つ意味とはどのようなものだろうか。アクセス数が多いということは、そのサービスがネットのトラフィックの発信源たるトラフィックエンジンとして大きな役割を果たしているということだ。つまり、Facebookなどのソーシャルメディアが生み出すトラフィックが、Googleなどの検索エンジンを上回ったと言い換えることができる。

 この理由として、小川浩は次のような説明をしている。現在、多くのネットユーザーは検索結果から自分の興味に即した情報を選ぶよりも、自分の知人や友人が興味を持った情報にアクセスすることを好む傾向にあるため、ウェブにおけるソーシャルメディアの存在感がより大きくなっているということだ*2

 ソーシャルメディアによる情報入手の行程の中では、ソーシャルグラフの存在がうまく機能していると言える。ソーシャルグラフは主にウェブ上での人間関係、結びつきや繋がりを意味する概念として捉えられているが、それだけではない。

 斉藤徹は広義のソーシャルグラフの定義として、「ヒトとヒトだけでなく、ヒトとモノ、コンテンツとの繋がり」も加えて説明している*3。ウェブ上で他人が興味の対象としている情報の価値が高まっているということであり、それを見つけるための繋がりであるソーシャルグラフこそが、Facebookを次世代の検索エンジンたらしめている元凶だろう。

 無論、ソーシャルグラフによる情報の共有はFacebookに限ったことではない。他の各ソーシャルメディアでも当たり前のように実践されている。中でも特にTwitterは、緩い繋がり故に多くのソーシャルグラフを形成するため、有識者や専門家のアカウントをフォローすることで、厳選されたより良い情報入手の手段として活躍している。

 第1回の内容の確認ともなるが、つまり、ソーシャルメディアがもたらしたものはヒトとヒト、ヒトとモノなどのあらゆる繋がりであり、その関連性によって生まれる情報共有でもあるとも言える。

 それは、膨大になり過ぎたウェブの情報の中から、求めるものだけを検索エンジンで探し出すことへの疲労に対する、処方箋であるとも言えるのではないだろうか。そこではソーシャルグラフが大きな役割を果たしており、検索エンジンにはなかった、双方向での交流なども生まれうる。交流によって情報はさらに洗練され、より良いものとして広まり共有されていく。これからの時代では、このソーシャルグラフこそがインターネットにおいて何よりも重要視されるようになるだろう。

 

日本におけるソーシャルメディア

 ところで、ソーシャルメディアを含めたインターネットコンテンツと言えばやはりアメリカが他のどの国よりも先行しており、活発なイメージがある。実際、世界的に広まっているサービスの多くは米国発祥のものばかりだ。では、そのような中、日本におけるソーシャルメディア事情はどのようになっているのだろう。

 参考に、第二章で描き出した新しい「地図」を再確認してみよう。

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 地図を描くに当たっては、世界的に有名なサービスと国内で有名なものを主に選出して載せるようにしたが、日本発祥であり、かつ他国で影響力を持っているようなソーシャルメディアは皆無だ。mixiやニコニコ動画、OKWaveなどは海外展開も行なっているが、どれも類似サービスの後発となってしまっているため、大成功には至っていない。SNSや動画投稿サイトなどの既存のサービスは、各国で独自のものが作られシェアを獲得してしまっているので、他国に進出して成功することは難しいと考えられる。

 それでは、日本独自のサービスがないかと探してみたところ、日本では他国と比べてイラストに特化したSNSが多く散見された。特に最大手であるpixivはユーザー数が330万人、月間ページビュー数が25億というかなり規模の大きなサービスとなっている*4。当然、海外にもイラストを扱うサイトは多々存在するが、作品の投稿数やPV数、そこで行われる交流などを考慮すれば、pixivに勝るものはないだろう。

 SNSの種類は様々だが、日本でこれだけイラストに特化したサービスが発達した理由はやはり、日本特有のサブカルチャー・オタク文化といったものが背景にあると推測される。幼い頃からアニメや漫画に気軽に触れることができ、それらを描くことに憧れを抱く人は少なくない。

 しかし一方で、この手のサービスが海外でも成功するかどうかは怪しいところだ。同様にサブカル好きが集まるサイトとしてはニコニコ動画が挙げられるが、今のところ、海外では利用人数が伸び悩んでいるのが現状だ。今以上に日本のアニメ文化が世界に広まらない限りは、これらサービスが成功するのは難しいと思われる。

 このように、現状では日本独自のソーシャルメディアは数が少なく、しかも海外で通用するとは考えにくい。島国故の閉鎖性によるものと捉えることもできるかもしれないが、逆に考えれば、独自性の強いサービスを作り出すことも可能だと言える。

 ソーシャルメディアも成熟しつつある中で、これまでのように既存のソーシャルメディアを日本向きに改良するのではなく、全く一から新しい日本的なサービスが生まれてもおかしくはないと思う。そのためには、国内の人間関係だけで満足するのではなく、インターネットとソーシャルメディアならではの特性と活かして、より積極的に海外の人々と関わっていくべきではないだろうか。

 

一体化するネット社会と現実社会

 ウェブが「電子の海」と表現されるように、元来、インターネットは自然と性質を異にする領域であり、人間が作り出した仮想空間だった。現実に対する仮想、オフラインに対するオンラインというように、それぞれの空間は別の場所であることが強調されてきた。しかし、現代では「仮想」であるはずのネットが現実を取り込み、侵食さえしつつあることは誰の目にも見えているはずだ。

 それは、ネットショッピングやテレビ電話など、現実での活動を仮想空間で代理的に行うというような話では収まらず、もっと直接的かつ内面的なものとまでなりつつある。これまではウェブ上の情報と言っても、それは現実社会に存在する事象の一部であり、プロフィールやアウトラインなどの表面的なものでしかなかった。

 ところが、ここ数年間で現実世界のあらゆる情報は変換され、ウェブ上にアップロードされている。人物や企業のプロフィールはSNSで、映像や音声は動画サイトで、さらに人々の興味関心はソーシャルグラフとして吸い上げられ、普通に現実社会で生きていては得られないような繋がりすらももたらしている。もはや私たちが社会の中で生きていくには、インターネットの存在は無視のできないものとまでなってしまった。

 ソーシャルメディアが広まりつつある現在、無視のできない問題も顕在化してきている。今からおよそ10年前に話題となったデジタルデバイドならぬ、「ソーシャルメディアデバイド」がそのひとつだ。

 ソーシャルメディアを利用しているか否かという基準だけではなく、どれだけ使いこなせているかどうかという点も問題になってくるだろう。特に大元隆志はソーシャルメディアデバイドがもたらす格差として、情報流通の格差、知識の格差、コミュニティの格差の3つを挙げている*5

 デジタルデバイドでも情報の格差については語られていたが、ソーシャルメディアの場合は、そこに繋がりがもたらす情報の格差が加えられる。身近な繋がりだけでは大差のない同じような情報ばかり集まるが、ソーシャルメディア特有の「弱い絆」で繋がる人達からは、異なる視点での多種多様な情報をもたらす可能性が高い、ということだ。

 知識の格差は、受け取れる情報量の多さが異なることからも現れてしまうことが想像できる。加えて言えば、世界の「集合知」と繋がるソーシャルメディアをどのように活かし、そして知識を吸収できるか、という点も関わってくるだろう。

 コミュニティの格差も、繋がりを重視したソーシャルメディアならではの特徴によって引き起こされるものだ。自らの属するコミュニティの数が多いから良いというものでもなく、その繋がりの中で情報力・影響力のある人物と関係も持てるかどうか、ということも重要になってくる。

 一方では、ソーシャルメディアの発達によって、全てのものが記号と化してしまうのではないかという懸念もある。あらゆるものを「情報」へと変換することによって、現実に形として存在するものの存在が希薄化してしまうのではないだろうか。

 インターネットの繁栄期にも言われていたことであるが、ある事象についての情報を知っただけで、それを完全に「理解した」気になってしまうような傾向が、さらに加速することが考えられる。

 このような、全ての物事を情報へと変換することでもたらされる弊害に対処するためには、情報の扱い方について改めて見直す必要があるだろう。膨大な量の情報に飲み込まれないためには、「考える」ことの重要性を再認識するべきだ。

 ただ受信者として情報を一方的に得るだけではなく、入手した情報について吟味・考察し、自身の考えも含めた新たな情報としてアウトプットすること。双方向性を強みに持つソーシャルメディアならば、それが日常的な手段として可能だ。加えて、情報源や情報それ自体の妥当性に関する確認を怠らないことだ。ソーシャルメディア、そして情報と関わるに当たっては受け身ではなく、常に自ら主体的に思考し続けることが求められる。

 ソーシャルメディアの未来について考えたとき、ピックアップされるのはやはり「繋がり」だ。この先の数年間、ソーシャルメディアは全ての事象を繋いでひとつのネットワークとするべく、さらに広がっていくだろう。

 そして、それを牽引するのはFacebookやGoogleだ。Facebookはソーシャルグラフであらゆるサイトを繋ぎ、世界中のウェブサイトをソーシャルメディア化するべく今なお成長している。GoogleはSNSの分野に参入するだけではなく、最近では自動車などの分野にも参入し、全ての機器をインターネットへ接続することによる社会全体のクラウド化を目指している。その活動には、最新デバイスを提供しているAppleなども関わり始めている。それぞれが違う視点から繋がりを生み出す取り組みを広げることで、インターネットと現実社会の一体化の動きはますます加速することは間違いない。

 そのような活動の過程で、ソーシャルメディアがここまで発達し、インターネットという枠を超えて現実世界にまで現れてきたことによって、今一度それとの向き合い方や自身の使い方について再考する機会が必要だと私は思う。

 ネット世界の現実世界への進出は衰えることがなく、日進月歩の勢いだ。その波に飲み込まれないためにも、ソーシャルメディアについてしっかりと理解し、その正しい使い方、生活への活かし方を誰もが学ぶことのできる機会を作るべきだ。人間社会に生きる以上、少なからずは人と関わりを持つものであるし、ソーシャルメディアはオンラインとオフラインの垣根なしに、全てのものを繋げるネットワークとして成熟しつつあるのだから。

 

本連載の記事一覧

参考文献

[1]武田隆『ソーシャルメディア進化論』ダイヤモンド社、2011年。
[2]大元隆志『ソーシャルメディア実践の書 Facebook・Twitterによるパーソナルブランディング』リックテレコム、2011年。
[3]立入勝義『検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか?』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年。
[4]海原純子『ツイッター幸福論 ネットワークサイズと日本人』角川書店、2011年。
[5]小川浩『Google+次世代SNS戦争のゆくえ』ソフトバンク・クリエイティブ、2011年。
[6]池田純一『ウェブ×ソーシャル×アメリカ<全球時代>の構想力』講談社、2011年。
[7]濱野智史、佐々木博『日本的ソーシャルメディアの未来』技術評論社、2011年。
[8]青土社『ユリイカ2011年2月号 特集・ソーシャルネットワークの現在』2011年。
[9]KAI-YOU『ミニコミ2.0 ミニ・コミュニケーションとメディアの行方』2011年。
[10] Business Horizons Vol. 53 、P.59-68、2010年。
[11]O'Reilly Media、http://oreilly.com/
[12]株式会社インタラクティブ・プログラム・ガイド、http://www.ipg.co.jp/
[13]tokuriki.com、http://blog.tokuriki.com/
[14]ITmedia、http://www.itmedia.co.jp/
[15]ITmediaオルタナティブ・ブログ、http://blogs.itmedia.co.jp/
[16]ネットレイティングス株式会社、http://www.netratings.co.jp/
[17] Twiter Blog、http://blog.twitter.com/
[18]TechCrunch、http://techcrunch.com/
[19]Sifry's Alerts、http://www.sifry.com/
[20]@IT、http://www.atmarkit.co.jp/
[21]FPN、http://www.future-planning.net/
[22]Wisdom、http://www.blwisdom.com/
[23]Web担当者Forum、http://web-tan.forum.impressrd.jp/
[24]ASCII.jp、http://ascii.jp/
[25]日経ビジネスオンライン、http://business.nikkeibp.co.jp/
[26]Hitwise Intelligence - Analyst Weblogs、http://weblogs.hitwise.com/

*1:Facebook Reaches Top Ranking in US, Hitwise Intelligence - Analyst Weblogs(2010/3/15), http://weblogs.hitwise.com/heather-dougherty/2010/03/facebook_reaches_top_ranking_i.html

*2:小川浩(2011)、Google+次世代SNS戦争のゆくえ、ソフトバンク新書、P.15

*3:斉藤徹(2010)、「ソーシャルグラフ」ってなんだろう? - その意味やビジネス価値、争奪戦まで総まとめ、In the looop、http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2010/06/post-09c2.html

*4:イラスト/漫画の累計作品投稿数が2000万枚を突破、ピクシブ株式会社(2011/7/4)、http://www.pixiv.co.jp/pressrelease/2000.html

*5:大元隆志(2011)、ソーシャルメディア実践の書、リックテレコム社、P.320