メディアとしての「CD」の魅力と、付加価値が重視される音楽文化


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 音楽における「CD」というメディアについて考えたこと。

 

「CD」は1枚でひとつの物語

 僕が初めて、家に置いてあるものとは別に、「自分のもの」として手にしたCDは、CHEMISTRYの2ndアルバムだった。

 当時の僕にとってのCDは、「きれいな円盤を回すと音楽が聴けるなんてすげー!」という「はいてく」な代物であり、嬉々としてCDラジカセで聴きまくっていたような記憶がある。

 

Second to None

Second to None

  • CHEMISTRY
  • J-Pop
  • ¥2100

  

 その後、誕生日に自分用のコンポを買ってもらったことで、本格的に音楽を聴き始めるようになる。そのコンポは、CD1枚と、MD2枚が入れられるもの。しばらくは、CDをレンタルしてきて、MDに録音して楽しむ、という音楽生活が続いた。

 そんな中で、ある時、CDを録音していると、最後の曲の後にずっと無音が続いていることに気付いて、不思議に思った。なんだろう、不良品かな、などと思いつつ放置していると、いきなり書いていない曲が始まってビビった。なんじゃこりゃー!

 そう、いわゆる、ボーナストラックである。そんなものの存在を知らなかった僕は、めっさびっくらこいた。が、同時に、「おもしれー!」とも思った。ちょっとしたサプライズみたいでおもしろかった。確か、BUMP OF CHICKENのアルバムだったはず。

 

 そもそも、BUMPの楽曲には、物語性のあるものが多い。ひとつの曲の中にキャラクターが存在し、歌詞がしっかりと展開のある「物語」となっているものだ。

 コンセプトアルバムである『THE LIVING DEAD』が、CD1枚の中で始まりと終わりのある物語となっていたこともあり、「音楽って、CDって、こんなこともできるのかー!」と、子供ながら感動していた。

 

The Living Dead

The Living Dead

  • BUMP OF CHICKEN
  • J-Pop
  • ¥1800

 

 僕が初めて感じた「CD」の魅力は、その点になる。「ボーナストラック」というサプライズと、「音楽」による物語展開の示唆。

 このようなコンセプトアルバムとしてのCDは、ビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』*1に始まり、たくさんの作品が世に出てきているそうですが、これこそがCDならではの魅力じゃないかしら。

 

ブックレットを見てニヤニヤ

 CDのもうひとつの魅力、それはブックレット。ただ単に、歌詞と写真がまばらに貼ってあるだけなのを見るとがっかりするけれど、一風変わったデザインだったり、ちょっした仕掛けがあったりすると嬉しくなる。楽しい。

 レンタルしてきたCDに関しても、ブックレットと歌詞はひと通り見て、こっそりと口ずさんでもいた。が、一番最初に驚かされたブックレットは、中古で買った、エヴァンゲリオンのコンセプトアルバム

 

 

 BOOK OFFでエヴァのサントラを探していたところ、何枚かのサントラCDに並んで、棚に突っ込まれていたのが、これ。CDと言えば、四角いクリアケースにジャケットという印象しかなかったため、「……え?CD?」と戸惑ったほど。

 

 そのまま衝動買いしてしまい、開けてみてびっくり。

 

 「なんか丸い紙がいっぱい入っとる―!って、歌詞書いてある?ええ!?これがブックレット!?あれ?しかもこのデザイン、使徒っぽくね?うひょー!かっけええええええ!!」などと、驚くほどの凝り具合に、厨二心が悲鳴をあげた。こんなのもあるのか……。

 凝ったブックレットと言えば、「物語音楽」の代表格こと、紅白出場を果たしたRevoさん率いるSound Horizon*2の名盤、『Roman』が有名かと。

 

 

 このブックレット、穴が空いている。その中に次曲の予告と、ボーナストラックを入手するための暗号が書かれており、解読のためにはCDを隅から隅まで確認しないと辿りつけないという、手の込みよう。とんでもねえ。

 他にも、コンセプトアルバムに限らず、ブックレットに力を入れたアルバムは多々存在し、見ていて飽きない。歌詞やライナーノーツだけでない、そんな付加価値のあるブックレットも、CDの魅力のひとつではないかしら。

 

現在、「CD」がバカ売れしている場所

 CDには、このような魅力だってある。ところが、CDは売れなくなったと、音楽業界の関係者たちは口を揃えて嘆くらしい。

 その要因としては、インターネットの存在だとか、コンテンツの多様化だとか、音楽によるコミュニケーションの変容だとか、いろいろ考えられるけれど、実際、CDは売れていないのだろうか。

 おそらく、売れていないんだろう。売上だけを見ても、最盛期のミリオンがぽんぽん出ていた頃とは比較にならない。けれど、僕はCDが大量に買われている場所を知っている。

 

 それは、同人音楽界隈だ。コミックマーケット、もしくは、M3など。

 

 具体的なデータは見つからなかったが、同人音楽市場は年々拡大しているらしい。参加サークル数は明らかに増えているし、同人界隈からのメジャーデビューは、もはや珍しいものではない。

 そしてついに、2013年、前述のSound Horizonの代表であるRevoさんは、同人発のアーティストとして、紅白出場まで果たしてしまった。

 黎明期は、PC用アダルトゲームの楽曲をアレンジしたサークルが多かった。その後、東方Project*3のサークルが増加、ニコニコ動画が登場したことによって、ボーカロイドや「歌ってみた」といった新しい層が急増。今や、とんでもない規模になっている。

 

 同人音楽のクリエイターの多くは、ネットがメインの活動場所だ。即売会で売るCDは、ネットで既に公開している楽曲も多い。にも関わらず、人気のサークルには毎回、長蛇の列ができている。なぜだろうか。

 理由としては、「好きなクリエイターに会える」「良い音質で完全版を聴きたい」「特典に惹かれて」「クリエイターを応援する意味で」「形として持っておきたい」などだろう。

 ファンの多くは、CDそのものというよりは、「好きなものを買う」という購買体験や、会場でのコミュニケーションなど、CDについてくる付加価値を目的としているとも言える。

 

CDの価値と、音楽シーンの変化

 そのような意味では、握手券やブロマイドのついてくる、アイドル系アーティストのCDと何ら変わりはないのかもしれない。

 パソコンとインターネット、技術の進歩によって、記録メディアとしてのCDはその役目を終え、その付加価値が選ばれ、購入される時代となった。

 そう考えれば、僕らのような消費者としては、オリコンランキングや売上枚数などは、もう気にする必要もないんじゃないか、と思う。好きな音楽を、好きな手段で購入することができる今の環境は、むしろ好ましくもある。

 

 カラオケランキングなどに昔の曲が多いのも、誰もが同じ曲を聴いていた時代の名残であるだけで、別に最近の音楽の質が下がったとか、音楽を聴く人が減ったとか、そんなことはないと思う。

 ただ、特定の楽曲とアーティストに一極集中していた消費者が分散し、人それぞれが、好きなように、広く、様々な音楽に親しめるようになっただけ。

 オリコンがどうのとか、アイドルがどうのとかは気にせずに、ただただ、自分が今、好きな音楽を楽しもう。それでいいじゃない。

 

 

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