『砕け散るところを見せてあげる』2周目でわかる、恋と罪と家族の物語

 最初は、王道のボーイミーツガールかと思った。ヒーローに憧れる少年と、いじめられっ子の少女。テンポの良い会話は読んでいて楽しく、気づけば時間を忘れて読みふけっていた。

 ところが中盤から、「これはおかしい……というか、どっかで読んだような……?」と既視感を覚えた。急展開を見せる物語展開と、撃ち落とすべき「UFO」の比喩から思い出されたのは、無力な2人の少女が「砂糖菓子」でもって抗う物語。大好きな作品だ。

 甘くも残酷、やるせない結末に落ち着いたそれとは異なり、本作はハッピーエンドで終わるかと思われた。……が、その期待は辛くも終盤でひっくり返され、地の文による怒涛の展開が繰り広げられる。撃ち落とされたUFOと、2人の死んだ人間。最後には、訳のわからなさだけが残った。

 頭の中が大量の疑問符で埋め尽くされ、改めて冒頭部分を読み返し、再び最後の数十ページを追いかけて、追いかけて、追いかけて――ようやく、腑に落ちた。

 これは、いじめに立ち向かう少年少女の青春小説であり、独特の構造を持ったミステリーであり、そしてなによりも、喪失すらも温かく受け入れる「家族」の物語。何度も読み返したくなる、不思議な魅力を持った作品です。

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【ポケモンGO入門】初心者向けの遊び方と序盤の攻略法まとめ

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Pokémon Go: everything you need to know in 9 minutes - YouTube

※「長い説明はいらねえ!」という方はこちらをどうぞ↓

 

 配信されるやいなや、あっという間に世界中で話題となった『Pokémon GO』。20年来のポケモンファンであり、フィールドテスト版もそこそこ楽しくプレイしていた自分としては、待ちに待ったリリースです。

 本作はスマートフォン向けアプリということもあり、難しい操作は要求されず、感覚的にプレイできるゲームだと言えます。既にさまざまなサイトで「遊び方」が取り上げられている現状もありますが、本記事では、自分なりにその遊び方と魅力をまとめてみようかと。

 

 それとせっかくなので、本作とは深い関係にある『Ingress』の視点からも「攻略法」と「注意点」を提案できればと思いまして。効率的にプレイするにあたっては、Ingressエージェントとしての経験が役に立つのでは……?

 と言うのも、『Pokémon GO』のマップ上に登場する「ポケストップ」と「ジム」は、同作における「ポータル」の情報を流用したもの。ゲーム性や遊び方に関しても似通っている部分が多く、『Ingress』での経験やノウハウが役に立つのではないかと考え、まとめてみた格好です。

 そんなこんなで、あれこれと書いていたら思いのほか長くなってしまったのですが、『Pokémon GO』が待ちきれない人の参考になれば幸いです。慣れてきたら、チームを組んでプレイしたい。

 

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学生時代の書評を供養する〜①津村記久子『ポトスライムの舟』

津村記久子『ポトスライムの舟』

 第140回芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』を読んだ。最初にタイトルを聞いたときは、どこの新種のスライムかと思ったが……なるほど、“ポトス・ライム”とはつまり、観葉植物の「ポトス」を指すらしい。では、そのポトスの“舟”とはいったい、何を意味しているのだろうか。

 本作品では、契約社員として働いて過ごす女主人公・ナガセの生活が、彼女の母親、三人の女友達、仕事仲間など、周囲の人との交流を交えて淡々と描かれている。目的もなく、欲しいものもなく、ただ生きていくために働くだけ。目的ができても、実際に行動するか迷ったあげくにうやむやになってしまう。そんなある日、ナガセは世界一周のクルージング旅行のポスターを見かける。費用は163万円。その金額が自分の年収と同じことに気付いた彼女は、1年の間は副収入で生活しつつ、資金を貯めることを決意するのだが――。

 途中で急展開がある訳でもなし。文中で描かれているのは、主人公ナガセのなんでもない生活と、彼女の心情の移り変わりだけだ。しかし、それが全く単調さを感じさせないのは、なんでもない日常の中にも変化があり、その変化を作者が巧みに表現しているからだろう。同じ仕事を繰り返しているだけだからといって、無風で不変の生活が続くわけではない。考えていることが変わる。気分も変わる。体調だって変わる。それは内的要因にとどまらない。天気が変わる。知人の心情も変わる。すれ違う人だって変わる。そういった些細な変化を見つけることで、変わらないと感じられていたはずの日常が、変わる。いや、変えられる。そう考えることができた。

 また、1人の人間の日常生活が描かれているということで、多くの人が「あるある」と共感できそうな箇所も散見された。例えば、ナガセが使った金額をメモしているときの心情だとか。考えてみれば、「あるあるネタ」と呼ばれるこういった要素も、日常をおもしろおかしくさせる役割を果たしているのではないだろうか。自分の普段の行動が作中の登場人物と同じであることで、ちょっとおかしな気持ちになり、またその行動を現実で繰り返してしまって、おもしろさがこみ上げてくる。――ほら、また日常が変わった。

 では、作品の随所に出てくるポトスは何の意味を持っているのだろう。そして、その「舟」が指すものとは。

 このポトスはナガセが家で育てている観葉植物であり、実のところ、特に深い意味はないのかもしれない。作者も話しているように、この植物を育てる行為も、日常における「かけがえのないもの」のひとつに過ぎないのだろう。

 もちろん、いくらでもこじつけることはできる。作中でナガセが考えたように、お金のかからないポトスを食べることで旅行資金が貯まるまで凌ごう、とか。ポトスはクルージングへ自分を連れて行ってくれる舟なのだ、とか。彼女の夢にあったように、舟に乗ってポトスを世界中に配るのだ、とか。

 自分の考えとしては、作者の言う「かけがえのないもの」=「ポトス」なのではないかと思う。もしくは、帯の煽り文句にあった「お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける」という文が示す「夢」=「ポトス」でもいい。夢を叶えることが大切なのではない。変化がないと思い込んでいる日常の中で、何か「かけがえのないもの」や「目標」、そして「夢」を見つけて、それをゆっくりと育てていくことが大事なのだ。「ポトス」を乗せた「舟」はどこに行くのかわからないけれども、その航路はきっと楽しいに違いない――。自分は、そんな意味合いを含んでいると解釈した。

 変化のない日常に満足する。それもいい。逆に、変わらない日常が嫌で何かを期待する。それでは駄目だ。少し見方を変えるだけでも、どれだけ日常の景色が変化するか。かけがえのないものを意識するだけでも、どれだけ日常が大切なものだと感じられるか。それらに気付いただけで、これまでの日常は過去となり、きっと新しい日常を発見することができる。なんでもない「日常」を見つめ直したい人にこそ、ぜひ読んでもらいたい作品だ。

 

 

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川越の甘味処『あかりや』のピリ辛担々うどん&ミニあんみつ

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 この日は、朝から暑かった。毎年恒例となりつつある「縁むすび風鈴」を見るべく、川越氷川神社へと向かう道すがら。

 頭上からは太陽が照りつけ、足下からはアスファルトによって反射された熱が全身を穿ち、冷房で冷やされたはずの体温は急上昇。メシ屋を探す目は虚ろで、歩く足取りは重く気怠いお昼すぎ。

 川越と言えば、行列必至のつけ麺屋『頑者』が有名だけれど、さすがにこの炎天下で並ぶ気は起きず。

 チェーン店に入る気分でもなく、されども早く屋内に避難したい気持ちは強く。何も考えず、ただただ神社方面へとふらふらと歩を進めていると、一軒のお店が目に入った。

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 昭和13年に建造されたという建物には、「甘味処」の文字。

 軒先には涼しげな「氷」の暖簾が踊り、同時に、お持ち帰り用の販売スペースが目に入る。脇を見れば、店内への入り口とその横にはおしながきが設置されており、ランチ営業もしていることがすぐわかった。

 直感的に、これだ、と感じる。

 お昼の食事はもちろんのこと、この暑い日に食べる甘味がおいしくないはずがない。むしろ、このタイミングで食べないなんてウソだ。思い返せばこの数年、ろくに和喫茶に入っていない。暑さも限界だ。必然、そのまま暖簾をくぐっていた。

 

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